『雨は降らない』

2015.07.21『雨は降らない』

「ほら、食えよ。腹減ってるんだろう」「だ、誰が!」 男はニヤッとする。こいつ、楽しんでると猫は男をねめつけた。男は手で魚を半分に裂くと、ひょいっと手で掴み口に入れる。上品とはいえない食べ方だったが、それはおいしそうに食べるのだ。「流石、北鼠…

2015.07.19『雨は降らない』五話

「うるさい! 早くソレどっかにやれ!」「解せねぇな。これは商売道具だ」 男はそういうと、片手で首を持ち、もう片方の手でそっと金色の髪の毛を梳いてみせた。猫はぎょっとしたように、「しょうばいどうぐ?」と復唱する。「俺は人形師だ。こいつを売って…

2015.07.19『雨は降らない』四話

猫は小首を傾げた。どうして、鞄を切り裂いて気絶したんだっけ、と。そして、はっとする。顔がみるみるうちに青くなった。「ひぃっ!?」「なんだぁ?」 男が不思議そうに猫を見る。壁際に背中をぴったりとつけて、ずるずると逃げるように動くが、その先はも…

2015.07.17『雨は降らない』三話

思わず身を固め、男の顔をまじまじと見つめる。何か作業をしているようで、こちらには気がついていない。 彼はすごく若かった。何よりも翡翠よりも深い緑が印象的だ。猫には良く解らぬが、人で言えば整った顔立ちをしているのだろう。「あがが……」 そいつの…

小説『雨は降らない』 二話

鞄から飛び出してきたのは、胴体のない顔とやはり胴体の無い白い腕だった。「あぎゃああああ!」 生首の青い目がぎょろっと子供の視線とぶつかった瞬間、子供は逃げ出すわけでもなく、目的の食料を奪いとったわけでもなく、ただ、ふっと魂が抜けたようにゴロ…

小説『雨は降らない』一話

彼は黒い髪に、猫と同じぐらいの鞄を背負っている人間だ。歩くたびに鞄の中からがさがさとした音が聞こえる。きっと、あの中にはおいしいご飯だって入っているのだろう。じゅるりと、必然的に子供の口元からよだれが垂れる。 やる事といえば、後は一つだろう…

小説『雨は降らない』 零話

プロローグ 山にはたくさんの危険があると子供は知っていた。この獣道だって、安全とは言いにくい。きっと、人だって歩くだろうし、狐だって追ってくるに違いない。 しかし、この子供。普通の子供と少し変わっていた。真っ白な毛並みに、猫のようにふにょふ…