2015.07.19『雨は降らない』五話

 

 

「うるさい! 早くソレどっかにやれ!」
「解せねぇな。これは商売道具だ」
 男はそういうと、片手で首を持ち、もう片方の手でそっと金色の髪の毛を梳いてみせた。猫はぎょっとしたように、「しょうばいどうぐ?」と復唱する。
「俺は人形師だ。こいつを売って生活している」
「にんぎょうし? なんじゃそりゃ」
「まあ、所詮……頭の悪い猫には理解できねぇか」
「お前、性格悪いな!?」
 男はまた楽しそうに笑った。この会話の何が楽しいというのか。本題はこれじゃねぇなと言わんばかりに、人形をその場に置いて鞄を漁る。出てきたのは魚の切り身だった。それも火を通した後だ。
 脂がのっているのか、少しの光沢。少しばかりの潮の匂い。すんっと嗅げば、ぐるるとお腹がなった。