2015.07.19『雨は降らない』四話

 

 猫は小首を傾げた。どうして、鞄を切り裂いて気絶したんだっけ、と。そして、はっとする。顔がみるみるうちに青くなった。
「ひぃっ!?」
「なんだぁ?」
 男が不思議そうに猫を見る。壁際に背中をぴったりとつけて、ずるずると逃げるように動くが、その先はもう壁で逃げることはできない。古い壁がきしんだ音を奏でるだけだ。
 男は鞄をあさり、手に取る。しかし、人間の生首ではなかった。
「え」
「ああ、これか」
 男はそっと首を下に置く。
「人形だ」
「紛らわしい!」
 感情に任せ、身振り手振りで突っ込めば、男は愉快そうにクツクツと喉を鳴らす。押し殺したような声を出している男は、笑いを堪えているようにも見える。
「お前さん、これを見てびっくりして失神したのか」